人生ミルフィーユ

日々のふとした瞬間の重なり。

帯状疱疹で、一皮剥けたい②

一人暮らしの自由度は計り知れない。
学生時代も加えれば
私はもう随分、それを謳歌してきた。

ああ神さま、
これは決して私だけの贅沢ではないはずです。
特段の悪行もせず地味に、ふつうに、サラリーマンをしてきました。ほどほどに、です。
帯状疱疹になる由縁などないのです。

一人でいることの不都合は
健康を害したときに一気に押し寄せる。
たかだか水疱瘡のウイルスなのに
体の中で、何年も潜伏期間を経て復活すると
なんだこの様は。
痛みに加え、体を横断するぶつぶつの密集が
メンタルに大きなダメージを与える。
体が一部分だけ、特撮モノの怪物になったみたいだ。

プルル!というスマホの着信に
ビリリ!と体が反応するのに歯を噛み殺す。

「仕事終わったら物資届けるよ。欲しいものあったらメッセージしといて!」
昔からの友人だ。ああ、助けて。

体さえ動けば何かしら作れるくらいのものが
冷蔵庫になるのだけれど、作れる気もしない。

お惣菜の詰め合わせ、フリーズドライのスープとか味噌汁、栄養補助食品、ヨーグルト、アイスクリーム…あ、あとトイレットペーパーがもうすぐ切れるし、2リットルの水を3本くらい。

男友達だから重いものも良かろうと、遠慮ゼロの注文を付けた。夕方、彼は買い物袋をさげてやってきた。

自宅療養は、退屈この上ない。袋の中身を、痛む体でゆっくり確認しながら、いかにこの病が厄介なものかをここぞとばかりにブチブチこぼした。招き入れてもてなす気力がなく玄関先での対応にも関わらず、うんうんと親身に聞いてくれる友人。

袋の中身に、注文していないものを見つけた。

「あ、それね、美味しそうだったから差し入れ。お使いくらいしかできないけど、早く良くなってね。」

一人暮らしをすると、買うことが少なくなる果物。ほんのり甘い香りが鼻をかすめ、赤い小ぶりなフォルム。優しい友人の言葉もあいまって心が緩む。

何かしなきゃ価値を認めてもらえない世界で、
特に何もしないのに、
自分のことをこうして按じてくれる存在はそう多くない。作るのだって難しい。
療養期間だけとはいえ、仕事を手放すことを決め
自宅で何もせず過ごしていると
自分の無益さや、無益に過ぎていく時間が
とてつもなく空しく感じられる。

何かしなくちゃ、生み出さなくちゃ。
一歩外に出ると、同じようなことを考えている人たちの塊に押し流されて、
自分の歩調を保つことすらままならない。
体を病む心当たりはないのだけれど
私たちは自分が思う以上に
只ならぬ何かに急き立てられているんだろう。

友人はにっこり笑う。
スウエットで、髪がボサボサでノーメイクの私にも優しい。
買い物に行ってくれる、助かるということ以上に
無防備な私でも認めてくれる人がいるという安堵感。

ちょっと波に乗れなくなった自分も
認めてあげてもいいのかな。
誰に認めてもらえなくても
まず自分でそう思えないと
何かに煽られる感覚からは逃げられないのかもしれない。

自分にとって大事なものを
少し整頓してみよう。
思っているより多くないかもしれない。
心身をこじらせてるのは自分かもしれない。

友人がドアを締めて帰るのを見送り
そんなことを考えていたら
お金を払うのを忘れたことに気づいた。

この調子だときっとまた頼まなきゃだし
そのときにまとめて払おう。
次の差し入れが何かも楽しみだ。

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