落ちてるようで落ちてない愛
テレビで観た、行列が出来るミートパイの店。
いつもそこにあるであろう行列を仕切るポールが並んでいる。
店はシャッターが閉まっているが
あと10分で開店時間、
どうせなら、と私が店の前に立つと
ただの通行人や、
人との待ち合わせを装っていた人が
キュー待ちだったエキストラのように
急に私の後ろに列を成す。
私の後ろに50過ぎくらいの夫婦が並んだ。夫が口を開く。
「ここいつも仕事で前を通るんだよ。列が長すぎて何の列なのかもわからなくて。」
「そういうときは確認してよ。いつも通るなら買って来てくれれば良いのに。」
「仕事中は並べないだろ。」
「並べーまーすー。」
「ま、そもそもあんまり興味がないからね。」
夫婦は、高校生が友達同士でアイスクリーム屋にでも並ぶかのように、祖父や娘にいくつずつ買って行くかという会話を続けていた。夫は、任せるよと言って、嫌な顔をせず一緒に並んでいる。興味がないのは事実なのだろうが、表情は穏やかで、他愛も無いこの時間を過ごすことへの嫌気は全く感じられない。
結婚で大切なことって、
なんだかんだでこういうことだと思った。